★ 遺伝の再評価(繁殖・訓練者必見です) ★
(Inheritance Reassessed1993 Robert G. Wehle)
アメリカン・フィールド誌1993年クリスマス号
「遺伝の再評価」
ロバート・G・ホイール
遺伝のミステリー
私たちは長い間、成犬をトップコンディションに保つために、また若犬の肉体的特質を成長させるためポインターにハーネスをつけてきました。そして、カナダの北東及び東部地区で犬ぞりレースに参加してきました。
この犬ぞりレースの話が誤って日本に伝えられ、「エルフューの基礎犬は荷車を引くポインターだ」と言われていると聞いたことがあります。
現在はレースに参加していませんが、ポインターは非常に競争力が高く、大きなレースで何度も勝利しました。
ナショナルチャンピョンのエルフュー・ダンシング・ジプシーは、そり競技をしていた間も、台牝としての現在も、ハーネスをつけてコンディションを調整し、トップコンディションに保つために今もチームの一員としてそりを引かせています。
チーム内での彼女の位置は常に二列目の右側。左側はエルフュー・ミスター・マッグーです。彼とは二度交配しました。
トレーニングでチームが止まった時、ジプシーがマッグーの背中に前足を乗せて休むのはいつもの光景です。マッグーは気にする様子は見せず、それどころか非常に快適そうにしています。
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ハーネスを付けたエルフューポインター達 | エルフュー・ジプシー | エルフュー・ガピー |
ジプシーが妊娠したために、ガピーという若い牝犬と交代し、ガピーが初めてそりを引いた時のことです。犬舎から約一五マイル(二四㌔)のピクニックエリアに止まると、ガピーはマッグーの背中に前足を乗せているのです。ジプシーと同じ仕草です。何年もの間、私たちは数多くのポインターにハーネスをつけて走らせてきましたが、この二頭以外には同じような行動する犬を見たことはありませんでした。ガピーはジプシーの娘なのです。
これは本当に信じられないことですが、このような行動様式は遺伝するのかもしれません。このことはすべての遺伝的行動についても当てはまります。もし、このことが本当であれば(わたしは本当だと思っていますが)、犬が行動のすべてのことは、遺伝的に影響を受けているということになります。それはフェンスを登ったり、吠えたり、ランニングパターン、ゲームに対する行動などです。
この遺伝的行動に対する新しい発見が、鳥猟犬のブリーディングという素晴らしい世界を今後、明瞭にしていくのか、より混沌とさせるのか、私にも明確には分かりません。
私は遺伝的行動を理解するために遺伝の再評価をしています。あらゆる科学分野が発達しているにもかかわらず、いまだ遺伝については未知の領域がありますが、遺伝学は地球上のすべての生き物に関係しています。この分野では『種の起源』を書いたチャールズ・ダーウィン(一八〇九~一八八二)の業績がよく知られています。
遺伝に関するミステリーは常に好奇心をくすぐります。というのは、変化しやすい、終わりのない迷路のように正確な発見がないからです。
三十年ほど前にスコットランドのグラスゴーから一人のポインター・ブリーダーがニューヨーク州スコッツビルのわれわれの犬舎を訪れました。名前はマーだったと思いますが、彼はそれまで出会った中で最も興味を惹かれたブリーダーの一人でした。彼はエルフュー・ニッカボッカーが最高の外貌のポインターでした。
二日間の滞在中に、彼は二〇〇年以上も同系統でポインターをブリードしているフランスの犬舎をはじめ、それまで訪問してきた世界中の犬舎や参加したトライアルのこと、ブッシュを焼き網模様にきちんとクオータリングする犬や、グラウンドパターンを実行させる時、ある犬は左手で、また別の犬は右手で指示されることなどヨーロッパのポインターの猟芸について熱く語ってくれました。
また、自分の著書と一〇〇年以上前にロシアで書かれたポインターの繁殖に関する翻訳本を持参していました。
われわれの犬舎を訪れる人たちから「なぜ、私たちの犬が吠えないのか」と、よく尋ねられます。私は「たまに言葉で叱る以外何もしていない」と答えるしかありませんでした。ところが、遺伝についての新しい知識がその疑問を解明してくれました。静かな犬を意識して長年にわたって繁殖したことが、ほとんど吠えない犬を作り上げたのです。
他人事で恐縮ですが、妻に内緒でエルフューポインター購入の話しを進めていましたが、米国エルフュー犬舎へ引き取りに行く矢先にバレてしまいました。彼女は夜の仕事です。「犬が吠えると隣近所にも迷惑をかけるし気兼ねしてゆっくり休めない」と言って、自宅近くの安アパートを借りました。そのことを知った猟友たちから「奥さんが怒って家出をした」と言われました。しかしエルフューポインターは噂通り本当に吠えない大人しい犬だったので妻はアパートを引き上げ帰って来ました。
かつて、エルフュー・スコットランドという名の若犬を飼っていたことがあります。スコットランドは仔犬の時から弧を描くように(ジグザグに)走っていました。当時、飼育していたその他の犬はほとんどが前方に走るだけでした。遺伝についての知識を持った今ならば、スコットランドは私たちの遺伝子プールに重要な貢献ができると思われるので、われわれの犬舎を離れることはなかったでしょう。
現在のブリーディング・プログラムは、遺伝の基本的概念を取り入れ、個々の犬の行動を分析して、環境によるものなのか、遺伝によるものなのかを分類しています。
また、望ましい遺伝を特定するためには、仔犬の行動が私たちの介在で影響を受ける前に仔犬をより注意深く研究することが重要であると指摘しています。
早熟性は遺伝です。羽根に対する早期のポイントは遺伝です。私たちは仔犬を評価するために羽根を使ってきました。実際のポイント能、ポイントの激しさ、スタイル、力強さなど、より多くの重要な遺伝的特徴が現れています。
例えば、フィールド・トライアルのチャンピョンシップで勝っていたが、どちらかといえばゲームの処理に問題があり、それを解決するために多くの助けとトレーニングを必要とする犬よりは、八週齢で羽根に良い演技をする犬をブリードしたいと思いませんか。
正しいブリーディング・プログラムを組み合わせて、すべての特性にこの原則を応用します。このことは人工的な演技をする犬よりも、遺伝的特性をよく知っている繁殖犬のほうがよいことを示しています。私は正しいブリーディングのバックボーンになっていると信じています。
体型、性質、知能、強情さ、狩猟本能などを含めたブリーディングのあらゆる局面に、その結果が現れていくのを見るのは鳥猟犬のブリードで最も興奮する場面であり、最も価値のある部分です。
ブリーディングの本質
最近、問題となっているのが、悪い尾を外科的な修正(手術)をして、体型の欠陥を物理的に改造することです。犬種の改良を前提としたフィールド・トライアルやドッグショーで、なぜ体型の悪い部分を外科的に改造したり見逃したりするのでしょうか。そのような粗悪犬を飼っている人が正しいブリーディング・プログラムを指導することが本当にできるのでしょうか。
ブリーディングの本質は、ナショナル・オープン・シューティングドッグ・チャンピオンシップに勝ち、猟犬として必要なすべての特質を持つ犬をブリードするという複雑でかつ精巧なものです。正しいブリーディングの結果は、強い遺伝子プールの重要性をさらに説得力のあるものにします。
まず、遺伝の伝達源を作成し、他の方法より重要であるライン・ブリーディングを通じてファミリーやストレイン(系統)の中にとどまらせます。遺伝子プールの中の望ましい特質をすべて蓄積して保持することは、多くの同じようなブリーディングを必要とします。
このことは、熟慮して行うアウトクロス(異系交配)でのみ開かれる宝物箱に大切な特質を入れることにも似ていますが、この場合は私たちの基本的な目標と反対の結果が出てしまうようです。
ライン・ブリーディングは平凡な、あるいはありふれた犬になっていく一定の傾向を打ち消すように見えます。
時折、大きな特色を持った犬がアウトクロスから浮上しますが、これは瓶に稲妻を捕まえることにたとえられます。強い遺伝子プールを確立する過程では新しい血液を入れるためのアウトクロスが必要かもしれませんが、成功した経験は非常にまれでした。
私は五十七年間でどれほど多くの系統やサイアーをテストしたか分かりません。
レキシントン・ジェーク(一九三三~四六)に始まり、アリエル(一九三八~四五、)ワーフープ・ジェイク(一九四〇~五五)、タイニー・ワフー(一九五九~六四)、レッドウオーター・レックス(一九六九~七四)が、私たちの遺伝子プールの確立に貢献のあった犬として挙げられます。そして最後に成功したアウトクロスはフックス・バウンティー・ハンターでした。
ガード・レール(一九五七~八四)の名前がありませんが、彼は私たちの系統ではアウトクロスではなくメンバーなのです。
私たちの遺伝子プールの現在の構成では、少なくともあと数年間はアウトクロスの必要性はないと思います(訳者注・その後一九九〇年、ナショナルCH・ダンズ・フェアレス・バッドが用いられ成功しています。輸入した繁殖用種牡のエルフュー・ジェークはこの系統です)。
私たちは幸運にもイングリッシュ・ポインターという素晴らしい動物を継承し、その一時的な管理人をしているだけです。すぐに次の世代へと継承されていくことでしょう。その間に本質的な変更を加えることは私たちの権利ではありません。本質的な特色は残した上で、できるだけの改良を試みることが必要なのです。
現在のポインターが五十年前のものより良いかとよく質問されます。私は「そうでなければ、私たちは多くの時間と努力を無駄にしたことになります」と私は答えています。
より強く、粗食(倹約家の見本)、外貌がよく(ハンサム)、より知的で、良い性質、訓練の容易さ、よいポイントスタイル、そして多芸の銃猟犬として改良され、現在に至っているのです。
つまり、次の一胎の仔犬を評価するという興奮(ワクワクすること)が、絶え間ない改良をするということです。中に何が入っているのかと期待しながらクリスマスプレゼントを開ける時の幼い子どもの気持ちと同じです。
遺伝の仮説を経時的に記録するこの試みは、鳥猟犬ブリーディングという魅惑的な芸術を始める時に助けになるでしょう。
犬はあなたのことをどう思っているのでしょうか?
彼は私たちのことをどう考えているのでしょう。私たちが彼にしているように、彼は私たちを絶えず評価しているのでしょうか。私たちは一貫して愛情を同じように示しているでしょうか。
あるいは、時々ある種の小さな過ちに過剰に反応して、私たちに対して持っているイメージを酷く傷つけていないでしょうか。
彼の生涯はパピーの時から、彼のために餌を与えたり、世話をして楽しませ、外の世界との唯一の接点であり小さな刑務所から彼を連れ出すことに責任がある人(おそらくただ一人)に愛情を感じています。
乱暴に扱うことは彼に対するアイドル像を変えてしまうに違いありません。このような失望は、彼の個性と行動の両方を変えてしまい、「もはや愛していません」シンドロームを生み出します。
犬舎に近づく私たちは「監獄から出してくれる人が来てくれた」という期待を犬に与えます。特に若犬が顕著です。彼らは自由にされた時に、私にジャンプしようとして瞬間的に立ち止まり、私の顔や手を舐め、エキサイティングな臭いでいっぱいの大好きなフィールドに駆けて行きます。
私は立ち止まって彼らを呼び寄せ、草の中に横になり彼らの好きなように私にじゃれさせて一緒に遊びます。再び歩き始めた時、彼らはまるで世界を支配しているかのようにとても幸せな気分で、頭を上げて尾を振っています。
チャンピオンへと成長させる秘訣は、仕事が終わった時に彼がまだ幸せだと感じているかを確認することです。そして、幸福感にひたる犬の訓練こそが芸術になるところです。
素晴らしい仔犬を教育することは良い子どもの成長にも似ています。それは親切と意志の固さのデリケートなバランスです。
チャンピオンを作り出すには、大胆でレンジが大きく、楽しげで、よく猟野に適合し、マナーを持ち、粘り強さ、ゲームを見つける決断力、ひたむきさという最終結果をもたらすことが要件です。何と素晴らしい挑戦でしょう。このような犬を所有することは、特別なクラブのメンバーであるかのような、信じられないほどの刺激があります。
仮に経営する会社でその人が判断されるのであれば、スポーツマンは、彼らが飼っている犬で判断されるに違いありません。たとえその犬を見るのがあなた一人であっても、素敵な犬でよい日を過ごすことは、スポーツマンが体験できる最も有益な感情の一つであるべきです。
年末になると、多くの友人は「いつまでポインターを繁殖するつもりか。そして、エルフュー・ケンネルに何が起こるのか」と尋ねてきます。
次の詩に偶然出会うまでは、何と答えてよいか全く分かりませんでした。その詩は私の立場をとても明快に語っています。
「ウイリアム父さん、年を取ったね。すごく脂肪がついているよ。今でもドアのところで後ろ宙返りができるね。ねえ、どうしてきちんとそれができるのと息子が言った。
俺の若い頃はなあ、息子よ。俺は自分の脳に害を与えるのじゃないかと怖かったよ。しかし今、俺はなんでもないと確信しているよ。俺は何度もそうするよ」私たちは毎年「看板犬」を飼っています。
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エルフュー・クレージー・ホース |
今年の看板犬はダンシング・ジプシーの娘のジプシー・リーとスネーク・フットとの間の息子エルフュー・クレージー・ホースです。まだまだ長い道程の途中ですが、現時点で彼は成功しているように見えます。
米イリノイ州シカゴ市『アメリカン・フィールド』誌のご好意により掲載
( Coutesy of the American Field, Chicago, Illinois )
UpdateDate(C)2019/10/05